空前絶後の川瀬巴水展に思うこと

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来年の1月2日~16日まで、東京立川の高島屋8階催会場で巴水展が行われます。出品総数400点を越えます。巴水の作品は640点ぐらいでしょうか。そうすると、巴水の作品の約三分の二を直接見ることが出来ることになります。これはすごいことです。

また、この400点のうちの約半数が売りに出されるということですから、これもすごい。

ということは、15日、16日あたりに行っても販売用の作品がない、ということにもなりかねませんね(ただし、常設の初摺り140点は最後の日まで見ることができます)。純粋な美術館での展示と違って、これがまた面白い。見てから買うか、買ってから見るか、です(笑)。

加えて、今回は7回もの巴水関連講演が予定されています。
そのうち、5回は国際新版画協会長の鈴木昇さん、2回が、何でも鑑定団などで有名な渡邊章一郎さんです。

そのうちの第5回目、1月8日(日)の鈴木昇さんのトーク(午後3時~4時)に、私もゲスト出演いたします。
何を話すかは秘密というか、鈴木さんが私に何を聞くかは当日のぶっつけだそうです。はてどうなりますやら、ちょっと心配です。

ちなみに、当日、会場まで着物でいらした方は、入場無料とのこと、粋ですねぇ。

今回、私も巴水の版画を一つ買いたいと考えています。
本来なら初摺りが欲しいところですが、私のような安月給ではもう初摺りは手が届きません。
よって必然的に後摺りということになります。

よく、初摺りがやはり良いと言われます。確かに、巴水の作品で言えば、摺り師の斧銀太郎さんが摺ったものなどは、やはり絶品、いや別品です。

たとえば、上掲の写真は巴水の初摺り「桃浦」です。左下の版画の枠外に「摺、斧銀太郎」の判があります。斧銀さんが自信を持って摺り上げた作品であることが分かります。右には「桃浦(茨城県)」「昭和二十三年」、そして下には「Momoura,Ibaraki Prefecture」とあります。外国に売り出すことを前提にしていたことが、ここから分かります。

巴水には珍しく、明るい作品ですね。農家の母屋の裏に広がるのは、かつて水郷の美を誇った霞ヶ浦です。私は小学校に入る前、この桃浦を訪れて、近くの湖水浴場で泳いだ記憶があります。この巴水の版画を見ると、その時の記憶が強烈によみがえります。

それから、ちょっと見えにくいのですが、左の藁ぶき小屋に横を向いて座っている人が見えます。手元が見えませんが、鎌か何かを研いでいるように見えます。こうした人物のまさに点描が巴水の特徴です。

しかし、後摺りも良いのです。世間では闇雲に初摺り信仰が広がっていますが、実は、後摺りには初摺りにない良さがあるのです。それは、摺ってから、まだそれほど時間が経過していないので、版が生き生きしていると言いましょうか。この生き生き感は初摺りではちょっと味わえません。

その、後摺りを、少し暗い部屋で、柔らかな光の中に照らし出すようにして鑑賞してみてください。巴水なら、やはりブルーに彩られた作品が良いでしょうね(「大森海岸」などぴったりです)。大きな和紙に挟んだ木版画をそっとその光の中に取り出しますと、鮮やかで深みのある世界が眼前に広がってきます。まるで匂い立つような美しさです。

摺り師・彫り師であるデービット・ブルさんも言ってましたが、版画、とくに木版画は、額の中に入れてガラス越しに鑑賞しない方が良いですね。やはり直接見るのが一番で、じっと眺めると、和紙に墨や絵の具が微妙に染み込んだ様が、立体的に浮かび上がるようです。

(デイビット・ブルさんのPV)

その昔、能を大成した世阿弥が、「花」には二つある、一つが「時分の花」、もう一つが「まことの花」だと言いました。初摺りが「まことの花」なら、後摺りは「時分の花」だと言っても良いように思います。出来あがって間もない、「時分の花」ならではの美が後摺りにはあるように思います。

ちなみに、この「桃浦」は近時、千葉にお住まいの或る方の篤志によって、茨城キリスト教大学の所蔵となりました。ありがとうございました。心よりお礼を申し上げます。




この記事へのコメント

  • 通りすがり

    「出品総数400点を越えます」
    「400点のうちの約半数が売りに出される」
    これらはどこからの情報ですか?
    タカシマヤ立川のホームページには
    「本展では、貴重な初摺り、約140点をご紹介します」とあり
    リストも掲載されていますが・・・。
    2016年12月17日 00:25
  • 染谷

    お返事は、巴水の会のブログに書きました。
    ごらんください。
    2016年12月20日 18:46

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