山川草木悉皆男色

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前のブログで、雁皮郎さんの新作コミックを取り上げました。

その中で、雁皮郎さんが、上の挿絵を踏まえてコミカライズされた場面(前のブログの巻頭写真下をごらんください)について、出来れば二人の視線を挿絵のように合わせて欲しかったと書きました。すると雁皮郎さんが、それを最初にねらったものの、挿絵の首の捻り方がかなり大胆ゆえに、視線をずらした形にしたとツイッターに書かれていました。

それで改めて挿絵とコミックを比較してみると、確かに、若衆の主馬は義左衛門のほぼ真後ろに居るわけですから、この位置で視線を合わせるのはかなり不自然ですね。そうすると、この挿絵は最初から二人の視線を合わせるというのが意図として在った可能性があります。

『男色大鑑』の挿絵は西鶴が書いたものではありません。絵師が誰かは分からないのですが、ただ『好色一代男』『西鶴諸国はなし』を始めとする作品の挿絵を自分で書き、他人の作品(『近代艶隠者』等)の挿絵を手掛けてもいる、ある意味、絵好き、挿絵好きの西鶴が『男色大鑑』の挿絵を絵師任せにしたとは考えられません。何らかの指示があったことは十分に考えられます。

そうすると、上記のように、ここで主馬と義左衛門の視線を合わせるようにと西鶴の指示があった可能性も出てきます。面白いですね。こうしてコミカライズというか復元してみることによって、色々なことが見えてきます。それから『男色大鑑』の挿絵の方が、雁皮郎さんのコミックより、より漫画チック(二次元志向)なんだということも分かります。これも面白い。

ところで、この挿絵は別の部分で昔から気になっていることがあります。

それは、二人の背後に手水鉢があり、その脇に二本の木があることです。

左は松です。右はちょっと分かりませんが、たぶん榊(サカキ)の若木でしょう。北村援琴の『築山造園伝』(1735)という江戸時代の造園書に「樹は阿セ木或は錦木或は南天燭或はミサカキ或は万年樹等なり。此外何にても虫の嫌へる樹なれば何の樹にてもよし」とあります。こうした手水鉢やつくばいの近くは水の清潔さを求めたので、植える木としては虫を除けるものが選ばれたのですね。厠の近くの南天が有名です(上記「南天燭」というのは南天の中国名です)。

いずれにしても、二本の木が寄り添うようにしてあることが注目されます。

また、松と言えば「松寿軒」、西鶴が良く使った軒号です。「松寿軒西鶴」これがもっともオーソドックスな西鶴の署名です。その松の脇に榊の若木、これはもう、念者と若衆、ここで言えば、義左衛門と主馬、『男色大鑑』全体で言えば、西鶴と辰弥(上村辰弥)ですね(笑)。

と、ここまで書くと、そりゃあセンセーちょいと考え過ぎちゃいますか、と言う声が聞こえて来そうですが、実は、ここからが大事なんです。

実は、こうした相生の木と言いますか、連理ならぬ連樹と言いますか、こうした二木が挿絵に描かれるのが、西鶴の他の作品に比べて『男色大鑑』ではかなり多いのです。

もう何年も前になりますが、西鶴の挿絵を悉皆データベース化することがあって(『西鶴と浮世草子研究』1号、附録CD「西鶴作品全挿絵」)、その時、西鶴の挿絵全体を調べた時に、このことに気付きました。

ただ、論文等に書こうとすれば、ちゃんと統計を取らないといけませんので、それは、いまだしのことなんですが、たぶん間違いないと思います。

では、他のはどんな絵かと言いますと、以下、三葉を掲出しましょう。


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これは、巻二の一「形見は二尺三寸」で、大名の寵童勝弥とそれを慕う片岡源介の話です。雁皮郎さんがコミカライズした三作品のうちの一つですね。勝弥を慕うあまりに物乞いにまで身を落とした源介を勝弥が訪ねる場面です。川の向こう岸に二木があります。柳と椎でしょうか。


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これは巻七の五「素人絵に悪(にく)や金釘」、荒木与次兵衛座での若衆たちの稽古風景です。左下に松と椿でしょうか(本文に弥生とありますので)、この二木が絡み合うようにして立っています。この二木、この場面でどうしても必要なものとは思えませんので、やはり男色を象徴するものとして添えられたのでしょう。


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これは巻八の四「小山の関守」です。コミック『男色大鑑』(歌舞伎若衆編)で、大竹直子さんが妄想に妄想を重ねて見事真実を射抜き、モウソウチク(妄想竹、孟宗竹)の称号を得られた、あの短編です(笑)。場面は、藤井寺の参詣から帰る歌舞伎若衆一行を描いたところ、右奥の籠に乗るのが辰弥です。木瓜(もっこう)の紋を付けています。

問題はその後ろ、松と桐との相生の木がありますね。桐と辰弥の関係は分かりませんが、松と桐は花札や家紋でも有名なように、花木の代表ですから、西鶴と辰弥との関係を象徴させているのかも知れません。

いずれにしても、『男色大鑑』の本文、挿絵を調べて行くと、山川草木悉皆男色と思われてくるのです。

ちなみに、左に竹(孟宗竹)が、その松桐を覗きこむようにしてありますね。まるで、
(大)竹→(萌え)→西鶴+辰弥
ですね。あはは、これはいくらなんでも。。。完全に私の妄想です。

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