変体仮名は読むべし、そして描くべし
今回のKADOKAWAのコミック版『男色大鑑』のチャレンジは、本当に面白くて、こちらの勉強にもなりました。心から、関係された方々に感謝したいと思います。もちろん、コミック世界のプロの眼から見れば、いろいろ注文はあるのでしょうけれど、それはそれとして、とにかく大きな、最初の一歩になったと思います。
ただ、実に細かいことなんだけれど、ひとつだけ、これは何とか工夫をして欲しいと思った点がありました。それは漫画に出てくる手紙です。若衆や念者、その他殿様を始めとする武士たちが、手紙を書いたり、読んだりする場面というのはけっこうあって、それはそれでまた美しく艶なる仕草でもあるのです。が、その手紙に書かれている文字、いわゆる「にょろにょろ文字」が、今回のコミックでは本当に「にょろにょろ文字」だったのには、ちょっと幻滅したのでありました。
もちろん、昔の文字、つまり変体仮名・くずし字をきちんと書いて欲しいということではなくて、それに似せて欲しいということです。というのは、昔の文字、とくに手紙や写本の字体は美しいのです。書き手にもよりますが、見ているだけで惚れ惚れとしてしまうことがよくあるのです。
若衆の手紙というのはあまり見たことがありませんが、『男色大鑑』に登場する若衆たちの手紙には、きっと美しさの中に凛とした強さがあったはずです。そうであればこそ、また念者たちは若衆に対する恋心をさらに募らせたのだと思います。手紙がそうした重要なアイテムであることに、思いを馳せて欲しいと思った次第です。
ちなみに、変体仮名・くずし字はそんなに難しくありません。だれでも興味を持って勉強すれば読めるようになります。で、すこし読めるようになったら、書く、いや描くことにもちょっとチャレンジして欲しいと思います。
最初に掲出した文字は私が試しに書いたものです。現行の仮名に直しますと、
この度 大竹うしより
日本一の若衆と
世上に申しわたし さてさて
めいほく此度なり
辰弥
となります。ま、つまり「この度はコミックにて、大竹直子先生に日本一の若衆と持ち上げていただき、めいほく(面目)を施しました、辰弥」ということになります。辰弥はご存知、上村辰弥、西鶴が惚れ込んだ若衆です。
決して誉められる字ではありませんが、こんな風にして変体仮名にて創作するのも楽しいものです。これも二次創作のひとつになるかも知れません。また、こんな文章を漫画にさらっと、いやしれっと入れておいて、知る人は知るぞかしとしておくのも楽しい仕儀でしょう。
いずれにしても、変体仮名・くずし字を楽しんでもらうことが大切かと思うわけです。
ちなみに、変体仮名・くずし字を学ぶなら、ちょうど折良く、昨今、忘却散人こと飯倉洋一さんが笠間書院から面白いテキストを出版されたので、推薦いたします。今の時代にぴったりですね。
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