韓国ドラマ『師任堂-色の日記』のダイバーシティ

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韓国ドラマ『師任堂-色の日記』(邦題、全30話)を見ました。

前評判に違わず、よく作り込んだ作品で、韓流ドラマはまだまだ力を失っていないと実感しました。

師任堂(1504~1551)は韓国の方なら誰でも知っている朝鮮時代前期の女性です。韓国語ではよく、
시와 그림에 능한 예술가이자 현모양처의 상징
と書かれます。これを訳すと「詩と絵画に秀でた芸術家であると同時に、良妻賢母(賢母良妻)の象徴」となります。

師任堂という堂号は、中国の周王朝をつくった文王という王様がいましたが、その母親が太任という優れた方で、その太「任」を「師」とするという意味です。

小さい頃から詩文と絵画に才能を発揮して結婚してからも、家族の応援もあってその才能を伸ばし「紫鯉圖」「山水圖」「草蟲圖」「蓮鷺圖」などたくさんの作品を遺しました。子供達の教育も熱心で、三男は朝鮮を代表する儒学者の一人、李栗谷です。彼は、日本の江戸時代の思想界にも大きな影響を与えた学者ですね。

ちなみに、現在、師任堂は50000ウォン、李栗谷は5000ウォンの紙幣にその肖像が使われています。息子がどんなに有名になっても、母親が十倍の金額になっています。やはり「孝」のお国柄なんですね。

ドラマはこうした史実と違って、師任堂と俊傑の王族・宜城君(イ・ギョム)との恋愛という架空の物語を縦軸に、高麗紙の製造、倭寇の侵入、両班たちの権力闘争といった横軸が絡みます。と同時に、現代における大学や美術館の国宝認定に絡む権力闘争も絡んで実に盛りだくさんの内容になりました。

このドラマを一言で言えばダイバーシティ(多様・多声)と言って良いと思います。その中で私が注目したのは、主役のイ・ヨンエ(師任堂)、ソン・スンホン(宜城君)両氏の才子佳人ぶりはもちろんですが、師任堂の夫イ・ウォンス役をつとめたユン・ダフンという役者です。彼の持っている喜劇性とそのコミカルでどこか切ない表情は、韓国ドラマの中では傑出しておりまして、今回も実に上手くその役柄にハマっておりました。この人、上手くいけば韓国で最高の喜劇役者になれるんじゃないかと、私は密かに思っておりまして、応援している次第です。

それからソン・スンホンさん演じる宜城君のそばにまとわりついているお坊さんがいまして、この方完全にゲイなんですね。宜城君が大好きで、お坊さんだから頭は坊主なんですが、耳に大きな飾り物を付けていて、これが妙に似合っていました(笑)。こうした人を配役するようになったというのは、韓国ドラマが成長を続けている証拠だと思います。

ただ、今回のこのドラマ、様々なことを盛り込みすぎた感がやはり否めません。朝鮮時代と現代を目まぐるしく行き来することも、面白いのですが、ちょっと分かりにくくもあり、また師任堂の絵の表現や、現代の金剛山図の真偽問題などがミステリー調に錯綜することも面白いのですが、もう少し落ち着いて絵を鑑賞したい気分にさせられます。

というのは、師任堂の絵画は日本の室町時代の雪村や雪洞、前島宗祐などの絵師たち、とくに関東の水墨画に影響を与えたと指摘されています(橋本慎司『韓国・朝鮮の絵画』所収「室町絵画への影響」)。このブログでも以前取り上げたように、私は雪村が茨城県の出身ということもあって特に愛着をもっていまして、その自由闊達さと師任堂の絵画は一脈も二脈も通じるのではないかと思っているからです。これについては、またいずれ書きましょう。

話をドラマに戻しますと、恐らくこの内容なら、倍の60回は必要だったのではないかと思います。とにかく一回一回が濃いですね。それは丁度、2時間程度で完結させる「映画」のような展開といったらよいでしょうか。そうした濃密さで30回ですから、ちょっと疲れてしまうんですね。

聞くところによれば、韓国であまり視聴率が上がらなかったというのも、そうした盛り込みすぎの内容だったからでしょう。ただ、そうした点を割り引いても、すぐれたドラマであることは間違いありませんので、鑑賞することをお薦めします。

なお、ドラマ中に出て来る倭寇はもうすこし丁寧に描いて欲しいと思いました。まず日本語がダメですね。他の史劇(時代劇)でもおなじですが(たとえば、昨今のもので言えば『懲毖録』)、日本人の役者さんは使えないのでしょうか。もちろん、日本側が出演を断っているということもあるかも知れませんが、韓国には日本語が上手な方もたくさんいますから、そうした方たちを上手く起用して欲しいと思います。そうしないと制作側が伝えたいものも伝わらない気がします。

いずれ、史劇(時代劇)でも日韓が協力して制作する時代が来ると良いですね。

最初の画像はDVD版『師任堂』です。









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