古典を二次創作する、これは「あり」だと思う

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笠間書院から新本『RE:STORY 井原西鶴』(1800円)が出ました。編集は西鶴研究会です(とはいえ、実質的には有働裕氏が編者として切り盛りされました。感謝いたします)。

私も、この中の一篇を担当させていただきましたが(「闇金、長崎屋伝九郎!」、原作は『本朝二十不孝』巻一の一「今の都も世は借物」)、たのしい経験でした。私のものは、二次創作というよりは、翻案と言いましょうか、話の筋はほぼ同じで、それを現在の関西弁に直すということに眼目にありました。

と言ってしまうと、お前さんの関西弁は大丈夫なのか、と問われそうですが、もちろん江戸っ子の私としては、それはかなり無理があります。そこで、私の中途半端な関西弁をネイティブの方に直してもらうという作業を出版社(笠間書院)にお願いして、完璧?なものになったわけです。(ということは、この「闇金、長崎屋伝九郎!」は私の作品というより、そのネイティブの方の作品と言った方が良いかも知れません)

今回、本になり、他の方の二次創作ぶり、翻案ぶりを拝見すると、私のものは原作にちょっと忠実すぎたようにも思います。ま、それだけ、この『本朝二十不孝』巻一の一「今の都も世は借物」は完成された、面白い作品ではあるのですが、もうすこし遊んだ方が良かったかも知れません。

せっかく、「闇金ウシジマくん」になぞらえたわけですから、伝九郎くんにも、ウシジマくんのような、硬派のイメージ、義賊のイメージを付けても面白かったかも知れません。

かつて、必殺仕置人、必殺仕事人等のシリーズがテレビの時代劇で人気を博しましたね(現在でも、その仕事人シリーズは継続しています)。これに倣って、伝九郎くんに悪所銀(遊廓の闇金融)を取り仕切りながら、密かに世の惡を打つ義賊に仕立て挙げたら面白いかも知れません。むろん、仕置人や仕事人のように直接手を下すのではなく、経済の論理を徹底化させることで不孝者や悪人を自滅に追い込むという手法です。

私にはそうした小説の才も時間もありませんから、どなたかいかがでしょう。

さてさて、それは別にして、今回の本は全部で12話が収録されています。どれも面白いですので、ぜひ手にとっていただければと思います。

私のイチ押しは「表参道殺人事件」(篠原進さんとゼミの学生さんの共同製作)ですね。全体が落語のノリになってまして、シン・ゴジラも登場します(笑)。それから畑中千晶さんの『男色大鑑』も良かった。「ぼく」語りにさせると、男色というのは独特な芳香を放つことが分かります。また、松村美奈さんのコラム「お雑煮ケンミンショー」も面白かったですね。こういう知識がしかも写真入りで、しれっと入ってくるところが、いかにもサイカク的でした。

それから、藤咲豆子さんのイラスト・挿絵がイイですね。独特な描線と空間の取り方が面白かった。挿絵というと一般的には小さく入りますが、1頁全体を使ってのものになってます。これは西鶴をはじめとする浮世草子類の「絵入り」を合わせてあるのでしょう。この感覚も良かったと思います。できれば2頁ぶち抜きの絵があっても面白かったと思いました。

ま、ともかく本書の帯にあるように「人の本性」のみならず、あらゆることが「てんこもり」になった一冊です。ぜひお読みになっていただき、できれば、他の古典でもこうした方法をお試しいただければと思います。






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