わたしたちは韓国を知らない

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(韓国の南海。特別な観光地ということではないので、日本人はほとんど行ったことがないだろう。しかし、こうした美しい景色が、韓国には点在している。染谷撮影)

 韓国(朝鮮)の文学、特に物語・小説、それから詩としては時調(シジョ。日本の和歌より少し長い)を本格的に読み始めて20年になります。

 この間、韓国に何度も行って来ました(韓国語では「ワッタガッタ」。「ワッタ」は来る、「ガッタ」は行くで、「来て行った」と逆になる)。年に最低2、3回はワッタガッタしていますから、相当な数になります。そして韓国の地方も凡そ行きました。

 自慢ではないですが、韓国人より韓国の観光については詳しいです。韓国人に韓国の国内旅行をするなら、ここがイイよ、あそこはやめた方がイイよとよく言ったりして、感心されますから。でも実は、私がそれほど韓国に詳しいということではなくて、韓国人はあまり国内旅行をしないんですね。大きな声では言えないのですが(じゃ書くなよって声が聞こえてきますが・・・)、韓国人はあまり韓国に興味がないのです(苦笑)。日本や米国に対しての興味の方が大きいような気がします。

 そうしたこととも関わるのですが、韓国(朝鮮)の文学や思想を読んで来て、思うことは一つ。彼の国・民族の文化は底が知れないということです。本当に。

 日本のマスコミを中心に、韓国や朝鮮半島について種々の言説が流されています。それらを聞きながらいつも思うことは、そうした日本からの彼の地への見方は全て当たっている、けれど、また全てが外れてもいる、ということです。 

 韓国の逸話というか流言と言いますか、その中にこんなものがあります。
 慶尚道(キョンサンド、釜山辺りを中心とする地域)、全羅道(チョルラド、木浦・光州を中心とする地域)は昔からあまり仲が良くありません。慶尚道の或る夫婦の娘さんが結婚することになりました。相手は日本人です。夫婦は悲しみに暮れて嘆きました、よりによって日本人とは、と。それを見兼ねた或る人が、夫婦をこう慰めました。日本人というのは残念だけど、でも相手が全羅道の人間じゃなかっただけ、まだ良かったじゃないかと。夫婦はすこし笑顔を取り戻しました。

 日本から見ると、韓国は一枚岩に見えたりすることがありますが、そうではありません。けっこうバラバラなんですね。ところが外国から何かあると、反日、反中、反米と言ってすぐに纏まります。ま、どこの国でもそうした傾向がありますが、韓国はそれが激しいと言ってよいかと思います。

 そうした多面性を持った原因は何かは、種々考えられますが、やはり歴史、とくに東アジアの要衝(交差点)になってしまったことにあると私は思っています。日本や中国を始め、多くの国・民族に蹂躙された朝鮮半島は、そうした周辺の様々な文化に対応しないと生きて行けませんでした。よってしたたかになる、いわゆるラテン系ですね。半島というのは陸と海との中間でそうした歴史やしたたかさを持ちやすいのです。ヨーロッパで言えば、イベリア半島[スペイン・ポルトガル]がそうです。

 だから、そのしたたかさを持つために、内側は非常に多面的になる。
 たとえば、対中国に対しては中華文化の一番弟子として士大夫文化を陶冶しつつ、荒くれの北方勢力や倭(日本)に対しては、けっこう荒々しくなります。よく韓国の文化は、パリパリ(早く早く)文化だと言われますが、それは庶民レベルで、朝鮮の貴族である両班たちは、歩き方をはじめ何でもゆっくり行いました。正反対の文化が韓国(朝鮮)では同居しているのです。

 これは文学を読むとよくわかります。私はいま、日本の江戸時代とほぼ重なる朝鮮時代後期の物語群を読んでいます。その中で金萬重という知識人の書いた小説に注目しています。金萬重は日本で言ったら紫式部と西鶴を足したような存在で、彼の書いた小説『九雲夢』は、江戸時代の『源氏物語』という感じです。(いずれ『九雲夢-朝鮮の源氏物語』というような本を書いてみたいと思っています。

 金萬重の書いた物語世界というのは、まさに底がしれず極めて捉えにくいのです。この点についてはいずれこのブログでも述べてみたいと思いますけれど、韓国・朝鮮文化の基盤に、この底しれない捉えにくさがあります。

 いま、こうしたことを考えたのは、昨今の韓国・北朝鮮、そして米国をめぐる政治的な急展開の様相があったからです。この急展開、驚くに値しません。朝鮮半島の多面性を考えれば、また歴史を踏まえれば、珍しい事ではありません。ただ、この大きな動きは、また逆に大きく振れることも覚悟しておく必要があります。

 とにかく、韓国・朝鮮半島というのは捉えにくい場所です。中国やロシアや他の地域の方がずっと分かりやすいという気がします。その韓国・朝鮮半島から、もっとも近い隣国にある日本は、そのことを十分に踏まえておく必要があると私は思っています。

 ところが、それに対する日本の備えがあまりに足りません。中国やロシア等に対してはかなり備えているのに対して、韓国・朝鮮半島に対しては実に薄いものしか日本にはありません。日本における韓国・朝鮮半島研究は極めて少ないですね。この研究は、まだ始まったばかり、いやまだ始まってすらいないと言えるかも知れません。



 
 

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