9月に『日本永代蔵』(講談社学術文庫)を出版します

巻一の一挿絵.png

来月の9月中旬に、講談社から文庫本『日本永代蔵』(講談社学術文庫)を出版します。

全訳注本で、矢野公和さんを中心にして、有働裕さん、と私が加わり、三人で作ったものです。

https://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4062924757/hnzk-22

『永代蔵』と言えば、西鶴作品中、もっとも売れた本ですね。どのくらい売れたのかは分かりませんが、江戸時代を通じて売れ続けたことは確かです。マンガで言えば、ONE PIECE か、DRAGON BALL ってとこでしょうか。物語の面白さだけでなくハウツー本の役割も大きかったと考えられます。

そうしたこととも関わりますが、『永代蔵』はまさに『男色大鑑』と真逆な世界を描き出しています。

『男色大鑑』が、若衆と念者が、番いの鶴になって雲間を飛ぶ美麗かつ勇武な世界を描き出したものであるとすると、『永代蔵』は埃(ほこり)と泥、そして汗にまみれた商人たちの地上の星(中島みゆき)の世界です。上に掲出したのは、『永代蔵』巻一の一「初午(はつむま)は乗(のつ)てくる仕合(しあはせ)」の挿絵です。江戸から大阪まで届けられた大量の銭を括りつけられた馬たち、それを引っ張る馬子の姿をご覧ください。

馬の腹には「吉」「寶(宝)」「仕合(しあわせ)」と貼ってありますね。これは、商人たちの果てない願いですね。

とくに、この「仕合」と貼ってある馬をひく少年にご注目。決して身形は良いとは言えませんが、精悍ですね。美しい若衆たちとは違った、力強さ骨太さがありますね。ちなみに着物を見ると菱紋ですよ。え、西鶴?自画像?

それはともかく、西鶴の筆は、こうした地上の星のきらめきを力強く記述してゆきます。

難波橋より西、見渡しの百景、数千軒の問丸、甍(いらか)をならへ、白土(しらつち)雪の曙(あけほの)をうばふ。杉ばへの俵物(ひやうもの)、山もさなから動きて、人馬に付おくれば、大道轟(とゝろ)き地雷のごとし。上荷・茶船かぎりもなく川浪に浮ひしは、秋の柳にことならず。米さしの先をあらそひ、若ひ者の勢、虎臥(とらふす)竹の林と見へ、大帳雲を翻し、十露盤(そろばん)丸雪(あられ)をはしらせ、天秤(てんびん)二六時中の鐘にひゞきまさつて、其家の風、暖簾吹かへしぬ。(巻一の三「浪風静かに神通丸」)

どうです。当時の商家の賑わい、喧騒ぶりがよく伝わってきますね。こうした土埃(つちぼこり)の中、子供達は丁稚奉公し手代・番頭・店の主人への伸し上がってゆくのです。

『男色大鑑』とは対極にある世界。この商人たちの奮闘ぶりや悲喜劇を見渡すと、なぜ西鶴が『男色大鑑』を描こうとしたのか、その秘密も分かってくると思いますよ。

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