半沢直樹のルーツは西鶴にあり!

日本永代蔵.jpg
(矢野公和・有働裕・染谷智幸編『日本永代蔵』講談社学術文庫 2018年、の表紙。この店の暖簾の意匠は西鶴その人のもの。こうしたデザイナーとしての才能も西鶴は持っていた。むろん原画はカラーではない)

「半沢直樹」がすごい人気ですね。このまま行くと視聴率が紅白歌合戦を抜くのではないかというもっぱらのウワサです。まぁそれはともかく、話の構成が歌舞伎のお家騒動物、そのものですね。それは、出演している役者さんに歌舞伎役者が多いということと関連があるのでしょう。しかも善玉・悪玉が、顔やその表情を見ただけでわかります。これも、歌舞伎の隈取(善玉=紅隈、悪玉=藍隈)と同じです。

いま、世の中はコロナ禍で疲れていますので、こうした分かりやすい劇が癒しになります。

私、というより若衆研のみなさんが注目しているのは、片岡愛之助さん演じる、金融庁の黒崎です。まさに怪演とも呼ぶべき演技力で大活躍ですね。とくに、部下の男性に対するセクハラ(股間鷲掴み)はすさまじい。あの鷲掴み、いろんな人にやって欲しい、頭取にはむりでしょうけど(笑)。そして、やったら出来るだけ放さないで欲しい。プロレスラーとして一世を風靡した、鉄の爪エリックのアイアンクロウのように(爆、これじゃSMの世界ですが)。

この「半沢直樹」は言うまでもなく、池井戸潤の小説が原作ですが、こうした企業小説・経済小説は、いますこぶる面白い。代表的なところを言えば、高杉良『虚構の城』1975年、幸田真音(まいん)『ザ・ヘッジ』1995年、真山仁『ハゲタカ』2004年、黒木亮『巨大投資銀行』2005年、雫井脩介『引き抜き屋』2019年等ですが、私のお薦めは城山三郎の『総会屋錦城』1963年ですね。内容はもちろんですが、文章がイイ。読ませます。

なぜこうした企業小説・経済小説が今ウケるのか、それには色々と理由がありましょうが、やはり経済を通して「いま」を感じさせてくれることと、そして経済・経営・金融をめぐる人間の欲望がテンコ盛りで、それが走馬灯のように「現れては消え」を繰り返すからでしょう。

こうした経済をめぐる物語・小説を遡れば、織田作之助『夫婦善哉』や樋口一葉の『大つごもり』を経由して西鶴の『日本永代蔵』に行きつきます。

経済小説表1.png(日本経済小説年表、染谷作成)

この『永代蔵』は、江戸時代に商人を中心に金儲けの指南書として読まれました。でも、実際はあまり金儲けに役立ちません。なぜか。それは読めば分かりますが、成功譚より失敗譚の方が多いからです。成功した人間より失敗した人間の方が多く登場します。半沢によって悪だくみを暴かれて、土下座させられた大和田や伊佐山のような大物から、諸田や曽根崎のような姑息な連中までいろいろと跋扈します(姑息な方が多いかな)。

西鶴の『永代蔵』を参考にしながら、江戸時代の武家や商家の経営破綻をめぐる騒動を小説や映画・漫画にしたら面白いでしょうね。黒崎のような人物や、若衆や若衆好きの殿様、遊女、陰間、お局さまなど多彩な人物を登場させて。お金も金・銀・銭に米も絡みますし、紙幣や手形も登場させたら複雑怪奇になりましょう。

なお『永代蔵』には女性が多く登場します。米の取引で船が入港するときに、港に落ちる米を拾って大金持ちになった女性(巻一の三「浪風静に神通丸」)や、富くじに当たって大金持ちになった下女(巻一の五「世は欲の入札に仕合」)の話などです。「半沢直樹」はその点、ちょっと物足りないですね。これから江口のりこさん演じる白井大臣に期待するところですが、もっと多彩に女性やLGBTQの方々を活躍させて欲しいと思います。そういった意味でも、黒崎の存在は楽しい限りです。

ちなみに、経済小説の歴史中で黒崎のような人間が居ないか探しています。でもなかなか居ませんね。やはり、黒崎は光った存在と言うことができると思います。
(染谷記)


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